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最高裁判所第二小法廷 昭和52年(オ)542号 判決 1978年7月17日

上告人・附帯被上告人

安場保文

上告人・附帯被上告人

村田経和

右補助参加人

徳田敬二郎

亡清野富美遺産管理人

右三名訴訟代理人

吉永多賀誠

被上告人・附帯上告人

清野博

右訴訟代理人

右本益一

被上告人

清野光子

主文

本件上告及び附帯上告をいずれも棄却する。

上告費用は上告人らの、附帯上告費用は附帯上告人の各負担とする。

理由

上告代理人兼上告補助参加人吉永多賀誠の上告理由第一点及び第二点について

届出された夫婦養子縁組において、養子夫婦の一方が養親夫婦の一方より年長であることを理由に、民法七九三条、八〇五条の規定によつて養子縁組全部の取消しの請求がされた場合には、年長の養子と年少の養親との間の緑組だけを取り消せば足りるものと解するのが相当である。その理由とするところは、次のとおりである。本来、養子縁組は、個人間の法律行為であつて、夫婦が共同して他の夫婦と養子縁組をする場合にも、夫婦各自について各々別個の縁組行為があり、各当事者ごとにそれぞれ相手方との間に親子関係が成立するのである(最高裁昭和四七年(オ)第二〇九号同四八年四月一二日第一小法廷判決・民集二七巻三号五〇〇頁参照)。ところで、民法七九五条本文は、配偶者のある者は、その配偶者とともにしなければ、縁組をすることができないと定めているが、右のように縁組は本来夫婦各自につき別個の法律行為であるのに、右規定が夫婦共同の縁組を要求しているのは、縁組により他人との間に新たな身分関係を創設することは夫婦相互の利益に影響を及ぼすものであるから、縁組にあたり夫婦の意思の一致を要求することが相当であるばかりでなく、夫婦の共同生活ないし夫婦を含む家庭の平和を維持し、更には、養親、養子となるべき者の福祉・利益を図るためにも、夫婦の双方についてひとしく相手方との間に親子関係を成立させることが適当であるとの配慮に基づくものであり(前記第一小法廷判決参照)、したがつて、夫婦の一方に縁組をする意思がなかつた場合は、その縁組は、縁組の意思のある他方の配偶者についても原則として無効としなければならない。そして、民法七九三条が年長者を養子とすることができないと定めるのは、身分上の秩序を尊重する趣旨に出たものであり、養子夫婦の一方が養親夫婦の一方より年長であるような夫婦共同縁組がされた場合には、年長の養子と年少の養親との間の縁組だけを取り消し年長の関係にない養子と養親との間のその余の縁組はその存続を認めたとしても、民法七九五条本文の規定の趣旨に反しないものと思われるからである。このような場合に養子縁組全部を取り消すべきであるとした大審院の判例(大正一一年(オ)第一一四六号一二年七月七日民事連合部判決・民集二巻九号四三八頁、法律新聞二一六三号六頁)は、これを変更すべきものである。

本件において、原審が適法に確定したところによれば、清野謙次(明治一八年八月一四日生まれ、昭和三〇年一二月二七日死亡)及びその妻清野富美(明治二八年六月一日生まれ、昭和四九年三月一二日死亡)と被上告人清野博(明治二四年一〇月一二日生まれ)及びその妻同清野光子(明治三三年四月一日生まれ)とは、昭和一五年三月一九同、双方合意の上、縁組をし、その届出が受理されたが、養子である被上告人博は、養母である富美よりも年長であつたというのである。右事実関係のもとでは、富美の甥に当たる上告人らが右養子縁組全部の取消しを求める請求につき、年長の養子である被上告人博と年少の養親である富美との縁組だけを取り消し、年長の関係にない養子と養親との間のその余の縁組を有効としてその存続を認めた原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第三点について

本件訴訟の経過に照らすと、原審が上告人らの申出にかかる証人の取調べをしなかつたとしても、違法を来すものではなく、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

附帯上告代理人右本益一の附帯上告理由について

原判決に所論の違法はなく、右違法を前提とする所論違憲の主張は、前提を欠く。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(栗本一夫 大塚喜一郎 吉田豊 本林譲)

上告代理人兼上告補助参加人代理人吉永多賀誠の上告理由

上告理由第一点

原審判決は「いわゆる夫婦共同縁組の原則は縁組の成立要件ではあるが、縁組の存続要件ではないとして、本件縁組において民法第七九三条所定の要件違反があるのは亡清野富美と第一審被告清野博との間の縁組のみであるから、右両名間の縁組のみについて本件取消請求は理由あるものと認め、要件違反のないその余の当事者間の縁組については縁組の個別性の原則に従つて取消請求は理由がないとした原審の判断は当裁判所の判示すべきところと同じであるからここにこれを引用する」として上告人の請求した亡清野謙次及亡清野富美と清野光子との養子縁組取消を棄却した。

然し夫婦共同の養子縁組は各独立した個別の養子縁組ではなく相互に相関連続して一体をなす共同縁組である。民法第七九五条は明文を以て「配偶者ある者は、その配偶者とともにしなければ縁組をすることができない」と定め、各別に縁組をすることは明文の許さないところで夫婦共同縁組は必ず共同、共通にしなければならない。

学説を一瞥すると次のとおりである。

穂積重遠著親族法五〇九頁には(旧民法)第八四一条第一項(現行法第七九五条)に配偶者ある者は其配偶者と共にするに非ざれば縁組を為すことを得ずというのは養子縁組の際養親たるべき側が夫婦であれば、夫だけの養子で妻の養子ではないとか、妻の養子だが夫の養子ではないということはあり得ないとあり、中川善之助著日本親族法三三二頁には(旧民法)第八四一条第一項違反の縁組は取消にあらずして無効なりとされる(昭和四年(オ)第一八二号同年五月一八日第四民事部判決、民集第八巻四九四頁)。山畠正男氏綜合判例研究叢書民法(15)三五頁には、民法上夫婦が縁組の当事者たるべき場合にその一方のみの縁組の成立をまつたく予想していないことは、縁組の効果に関する七二七条が養親または養子の配偶者に対する効果の規定を欠くことからも明白である。判例はそのため夫婦共同縁組を完全に一個の縁組定型と考えるのであるが、夫婦の一方のみについての縁組の存立の余地を全面的に否認しない以上(縁組後に養親が配偶者を迎えた場合)、夫婦共同縁組の要件の意義は単独縁組それ自体の否定というよりは縁組成立における当事者の共同の必要の点にもとめられねばならない。ではなぜ共同性を要件とするかといえば、立法論としての是非はともかく(中略)、夫婦の意思の関連を共同形式においてのみ是認したものとみなければならないとある。我妻栄・立石芳枝共著親族法・相続法二一二頁には、(a)もつとも夫の縁組と妻の縁組とは一体をなすものと解せられ、どちらか片方の縁組に、無効原因(八〇二条参照)または取消原因(八〇三条参照)があるときは、もう片方の縁組も、無効となりまた取り消しうるものとされる。(b)縁組当時は夫婦であつたが、縁組後離婚したという場合も、その離婚者両人それぞれの養親子関係は不変である。(c)これとは反対に、縁組当時は独身で縁組後に結婚した場合は、養親の配偶者と養子も、養子の配偶者と養親も、別段養親子関係には立たず、ただ姻族関係の発生があるにすぎない(七二七条(1)参照)。(d)配偶者のある者が配偶者とともにしなかつた縁組は、つまり当事者たるべき者で縁組意思を欠く者があつた縁組なのだから、第八〇二条第一号によつて無効である、とされた旧法当時の事例がある(大判昭和四・五・一八民集四九四頁)。同じく旧法当時夫妻の一方だけを養子とした縁組は、新法上も当然無効であるから(回答昭和二六・七・二三号民甲一五〇三号)。戸籍訂正をすべきである(決議昭和二四・四・二六九州各市)。とある。

旧法時代の判例は夫婦共同縁組は縁組の一方の夫婦と他方の夫婦との間の一個の縁組とされていたが、仮りに近代の学説のとおり個別の縁組としてもその間に共同共通の関係が存在しなければならない、若し「ともにしない」ときは法定の有効要件を欠き無効である。そしてその縁組が適法であるか否かは共同共通になされた縁組全体につき探究すべきで各個の縁組につきこれを行うべきでない。

判例に徴すると、大正一一年(オ)第一一四六号同一二年七月七日民事聯合部は「夫婦共同して養子を為したる場合においては夫婦を一方の共同当事者とする一個の縁組関係成立し各配偶者と養子との間に各別に縁組の成立するものに非ず、故に夫婦の孰れか養子より年少者なるときは他の配偶者は長年者なるも其の縁組は民法第八三八条の規定に違反したる縁組に該当し同法第八五四条により取消し得べきものなり」とした。(法律新聞二一六三号六頁)

又大審院明治三五年(オ)第六三七号同三六年一月二〇日第一民事部の判決によれば配偶者ある者の為したる養子縁組に因りて生じたる当事者間の親子関係は配偶者の一方のみに付て消長せしむることを得ざるが故に養子縁組無効の訴も亦配偶者の一方のみの意思を以て提起することを得ざるものとすとある(民録第九輯一巻二八頁)。

更らに大審院大正一五年(オ)第四四六号同年一〇月五日第二民事部の判決理由中には、配偶者ある者が其の配偶者と共に養子縁組をなしたる場合において其の一方に付取消の原因存するときは其の一方の養子縁組のみを取消すことを得ざるものにして其の双方に付養子縁組の取消を為さざるべからざるものとすとある。(民集第五巻七一八頁三行目以下)

原審判決は縁組の個別性の原則に従い、亡清野富美と清野博との間の縁組と亡清野富美と清野博の妻光子との縁組、亡清野謙次と清野博及び清野光子との縁組とを各個別の縁組としているが、亡清野謙次及び亡清野富美夫婦と、清野博及び光子夫婦との縁組は各夫婦につきその成立、効力は一体として定められるべきであり、(昭和四七年(オ)第二〇九号同四八年四月一二日第一小法廷判決、民集第二七巻五〇二頁一六行目)これを個別に四個の養子縁組としてその縁組の成立、効力を定むべきものではない。右一体として定められた夫婦共同縁組につき民法第七九三条の違反があるときは、その一体の夫婦共同養子縁組に法令違反が存し、その夫婦共同養子縁組は違反のない当事者についても無効である(同上五〇三頁二行目)

原審判決はいわゆる夫婦共同縁組の原則は縁組の成立要件ではあるが存続要件ではないとし、これを理由に上告人の請求を斥げているが、本件は共同縁組の解消―離縁の問題とは関係がないので存続要件に関して論及しないが、成立要件の欠缺に関する無効乃至取消の原因は縁組当事者が死亡しても、縁組が解消しても猶消滅しないのである。大正一一年(オ)第一一四六号同一二年七月七日民事聯合部判決(民集第二巻四四一頁)では民法第七九三条違反の養子縁組に限り取消権の行使に制限を加へさる所以のものは此の縁組の存続は公の秩序と相容れざるを以て取消に因り無効となるを望むに在ると判示している。大正一四年の親族法改正要綱第二四は目上養子の禁止に違反する縁組の効力を無効とすべきものとしている。民法第八〇五条は同法第七九三条の規定に違反した縁組につき各当事者及び親族に取消権を与え、人事訴訟法第二四条は養子縁組取消の訴は養親死亡後においてもこれを提起し得ることを定め、同法第二六条により準用せられる同法第二条第三項は養子縁組の相手方死亡後に提起する養子縁組取消の相手方につき規定している。昭和一三年(オ)第四二七号同年一〇月二九日第三民事部判決(民集第一七巻二〇七七頁)は「第三者は養子縁組が当事者の死亡により解消しまたは離縁届出により表見上養親子関係がなくなつた場合でも、縁組の無効確認の訴を提起することができる」と判示した。

以上の如くであるから原審判決の引用する第一審判決中の「夫婦共同縁組の原則は縁組の成立要件ではあるが、その存続要件ではなく、従つて双方に縁組意思があり一たん有効に成立し、かつ何らの瑕疵もない養親子関係が、他の一方の当事者に関する瑕疵により、縁組全体の瑕疵を招来すると解するのは、妥当ではなく、特に年長要件違反という稀有な縁組については、縁組の個別性の原則にかえり、要件違反の縁組のみについて取消しを認め、要件違反のない他方については単独縁組の成立を認めるのが相当である。このように解することによつて、年長養子禁止の公益上の理由と夫婦共同縁組の趣旨とを調和させることができると考えられるのである」との判示は夫婦共同縁組の一体性牽連性に反する違法がある。

上告理由第二点

原審判決の引用する第一審判決はその理由中に「本件においては、養親子関係は三〇数年に及び、現在においては養親はいずれも死亡しているから、一方のみの縁組を取消し、他方の縁組の存続を認めても家庭の平和が乱されるとは考えられず、従つて夫婦共同縁組の趣旨にもとるものではなく、この理は最高裁昭和四八年四月一二日判決(民集二七巻三号五〇〇頁)において、養子縁組の当事者である夫婦の一方に縁組意思がない場合に特段の事情があれば他方の配偶者について縁組が有効に成立すると判示した趣旨にもかなうものと考えられる。」と判示した。

年長養子縁組の禁止規定に反する縁組の取消請求権は歳月の経過により消滅しない。(民法第八〇四条但し書参照)よつてこれを理由として上告人の請求を棄却することはできない。

養親の死亡も亦年長者養子縁組の取消請求権を消滅せしめるものではない。(人事訴訟法第二四条、第二六条、第二条第三項参照)

養親子関係継続期間の長短、養親の死亡は夫婦共同縁組の一方のの(ママ)み縁組を取消し、他方の縁組の存続を認める理由にはならない。

夫婦共同縁組は上告理由第一点記載の通り相結合した一個の縁組即ち民法第七九五条にいう「配偶者あるものがその配偶者とともにした縁組」でその縁組は一体をなしているから一方と他方を区別してその成立要件、有効要件を考えることはできない。

年長者縁組取消請求権は家庭の平和が乱されることを防止するために与えられたものでなく尊卑の倫序を保持するために与えられた公益的取消権である。このことは縁組の当事者のみならずその親族にも与えてあることから明白である。

原審判決は夫婦共同縁組の一方のみを取消し、他方の縁組の存続を認めるというが、本件の場合、一方とは養子の側の一人、他方とは養親側の一人を指すもので、養子博は養親の夫謙次だけの養子であつて養親の妻富美の養子ではないことになる。これは夫婦共同縁組の趣旨にもとること明白で、これを「夫婦共同縁組の趣旨にもとるものではなく」という判決理由は全く理由をなさない。

謙次、富美夫婦が養親として、博、光子夫婦が養子として夫婦共同縁組をした理由、事情は上告理由第三点記載のとおり謙次隠居につき後嗣を得るためであつた。原審判決のとおり養親謙次、富美と養子光子との間のみの養親子縁組であれば養親謙次及び富美には養子光子のみと縁組する意思はないのであるからその縁組は民法第八〇二条第一号により無効であるから人訴法第一四条により処理すべきである。

次に原審判決の引用する第一審判決は最高裁判所昭和四八年四月一二日判決(民集二七巻三号五〇〇頁)の判示の趣旨を引用するが右の事案は本件とその性質が異り本件に適切ではない。右判決の判示事項は夫婦が共同して養子縁組をするものとして届出がなされたところ、その一方に縁組をする意思がなかつた場合の民法第七九五条との関係である。即ち夫婦の一方が他方に無断で他方の名義を冒用して共同名義で養子縁組の届出をして受理された場合のことであつて保護すべき法益は個人の家庭の平和という私益である。本件は保護すべき法益が尊卑の倫序を守る公益である。その取消は公益的取消である。右判決は民法第七九五条違反の養子縁組は原則としては縁組の意思のある他方の配偶者(届出をした養親の一人)についても縁組は無効であるとし、その他方と縁組の相手方との間に単独でも親子関係を成立させることが民法第七九五条本文の趣旨にもとるものでないと認められる特段の事情の存在を認めた事案である。

右のとおり原判決が本件共同養子縁組のうち一方の年長者縁組を取消し他方の年少者縁組を取消さない特段の事情として説示するところは悉くその理由がない。設段の事情の存否、内容につき審理不尽理由不備があることは上告理由第三点記載のとおりである。

右最高裁判所の判決は民法第七九五条違反の養子縁組は原則としては縁組の意思ある他方の配偶者についても縁組は無効であるとし一方の縁組の無効は他方の縁組に及ぶこと即ち夫婦共同縁組の消長は共同の運命にあることを判示した。この理を本件の場合に適用すれば、年長者養子博と年少者養親富美との養子縁組を取消すに止まらず年長者養子博とその妻光子と養親謙次、同富美両名との縁組を取消さなければならない。然るに原審が上告人の「亡清野謙次、同清野富美と被告(被上告人)博、光子両名との養子縁組(昭和一五年三月一九日届出)を取消す」との請求のうち、博と富美との縁組のみを取消、亡謙次と光子との養子縁組、亡謙次と博との養子縁組の取消請求を却下したのは不法である。

上告理由第三点<省略>

附帯上告代理人右本益一の附帯上告状記載の附帯上告理由<省略>

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